放課後、いつも通り生徒会室に来た俺は今、来たことを猛烈に後悔している。 目の前には困ったような笑みを浮かべているスザク。 その手にはポッキーの箱。 俺はため息を吐き、こうなったワケに思いを馳せる。 生徒会室に着き、今日も放課後登校のスザクをからかいつつ仕事をこなす。 いつもと変わらない放課後…のはずだった。 会長の“いつも”の思いつきさえなければ。
――お菓子な因果法則――
「王様ゲームしよっか」 悪戯っぽく目を輝かせた会長に嫌な予感を感じたのは俺だけではないはずだ。 仕事はまだ大量に残っているというのに会長は少しも意に介すことなく片付け始め …気付けば準備はこれ以上ないくらい整っていた。 くそ…こういうときだけはやたらと早いんだが。 仕事にもぜひいかしてもらいたいものだ。 ――そうしてゲームは始まった。 最初に王様になったのはニーナ。 彼女の作った謎の液体Xにより、しばらくの間リヴァルは再起不能に陥った。 ほかにも1分間倒立やら社交ダンス(これにあたったリヴァルは会長と踊れたことに感涙していた)やら ウィリアムテルよろしく林檎当てゲームやらをやり続け、そしてその時は訪れた。 王様になったのは会長。 ようやく当たった王様に思いっきりガッツポーズだ。 「ふっふっふっ…ようやく来たわね、王様権。 ではでは〜っ!ここらへんで王様ゲーム定番の命令をしたいと思いまぁす♪」 にんまり…と口を三日月の形に吊り上げ、彼女は高らかに告げた。 「2番と5番でポッキーゲーム☆」 確かに定番命令だが、だからと言って事態が好転したわけではない。 期待と不安を胸に、慌てて自分のくじを見る。 俺のは…2番っ!?まさか、そんな、ありえないっ!! 信じられない気持ちで何度も見直すが、どんなに見直しても番号が変わることは、ない。 こめかみを押さえ、俺はがくりと項垂れた。 くそっ…よりによってこの命令にあたるだなんて…っ!! これならば先ほどの“真顔でカレンを口説く”にあたった方が…いや、今は現実を見つめるべきだ。 だ、誰だっ!?5番は誰なんだ!? 内心の動揺をひた隠しにしつつ、辺りを見渡すも当たったように見える人はいない。 いや、1人いた。 そいつは困ったような笑顔で皆に告げた。 「あはは…当たっちゃった。2番は誰?」 くらり、とめまいを感じ俺はよろめく。 何が楽しくてスザクと“ポッキーゲーム”なんてしなくてはならないんだっ! ―よりによって男同士で。 俺が1人で考え込んでいる間も事態は着々と進んでいたらしく。 会長はスザクにポッキーの箱を渡すと、俺に向かって人差し指を突きつけた。 「ほら、ルルちゃん。往生際が悪いわよ。」 「ええっ!?2番はルル(ルルーシュ)っ!?」 シャーリーとスザクの声が綺麗にハモる。 ―というか、だ。シャーリーの引きつった顔は分かる。 が…スザク、なんでお前は笑顔なんだっ!? 心の中で思いっきり叫ぶものの聞こえるはずがなく、気が付けば俺はスザクと向かい合わせに立たされていた。 そして現在に至る。 「大体、だ。なんでお前はそんなに素直に言うことを聞けるんだ?」 二人で反対すればどうにかなったかもしれないのに、と半ば八つ当たりの気分でスザクを睨みつける。 「え〜だって会長命令だし。ルルーシュだって逆らえないでしょ?」 「う…それはそうだが…。」 「そうよ〜ルルちゃん。言うこときかないと、あることないこと全校放送でバラすわよ?」 「やります、やりますからやめて下さいっ!やるぞっスザク!」 にやり、と笑う会長に血の気が引く。 あの人は冗談でもやりかねない人だからな…。 ここは覚悟を決めなくては。 と勢い込んで言ったはいいが… 「スザク…なぜ俺はお前に押し倒されているんだ?」 「え?ポッキーゲームっていうのは相手を押し倒してやるものなんじゃ…?」 「…は?」 瞬間的に生徒会室の空気が氷点下に下がったように感じた。 「誰だっそんなデタラメを教えたのはっ!?」 一瞬の沈黙の後、思わず飛び起きて叫んだ俺に、けろりとした顔でスザクは答える。 とてもいい笑顔と共に。 「僕の上司。」 額に青筋が浮かんでしまったのは当然だと思う。 これだからブリタニアはっ!! 今度あったら全力で叩きのめしてやるっ!! 心の中で殺意を込めた決心をしていると、痺れを切らしたらしいスザクが再び俺を押し倒した。 「で、覚悟はいい?」 「あまりよくはないがな。」 どうあがいてもコレを避けることはできないらしい。 これは罰ゲームだ悪夢だ会長の呪いだ、と心の中で呪文のように唱え続ける。 そうでもなければ恥ずかしくてやっていられない。 「じゃあ、はい、咥えて。」 「んむっ…」 問答無用で俺の口にポッキーを押し込み、スザクは安心させるかのようににこりと微笑んだ。 そのまま意を決したのか、俺が咥えているポッキー目掛けて迷いなく近付いてくる。 当たり前、当たり前なんだが…スザクの顔が近い。 心臓の音が、心なしか早くなった気がした。 「私、もうだめ…。」 緊迫する空気を破って小さな声と共に何かが倒れる音が俺の耳に届く。 何事が起きたのか、と慌ててそちらを見ようとするがスザクに顔を掴まれ阻まれる。 「なっ…!?」 「そっちむかないでよ。折れちゃう。」 スザクの困ったような声に制止をかけられ、俺はしぶしぶ顔をスザクの方へとむける。 視界の片隅に映った情報から判断するとシャーリーが衝撃のあまり倒れてしまったようだ。 くそっ俺も倒れたい…っ!! …いや、すでに倒れてはいるが。 そもそもなんで俺がこんな屈辱的なことをしなくてはいけないんだ? 「ルルーシュ、考えごとは後にしてくれないかな?チョコレート、溶けちゃうよ?」 「あ、ああ。すまない。」 スザクの苦笑めいた言葉に俺は我に返った。 いかんいかん…つい思考に没頭してしまうところだった。 今はさっさと終わらしてしまうのが先決だ。 スザクと同じ速度になるように調整しつつ慎重に噛み進めていく。 鼻先が触れ合わんばかりになったとき思いっきりスザクと視線があってしまった。 「…っ」 とっさに視線を逸らしてしまった。 自分の心拍数が先ほどの比でないほど跳ね上がったのがわかる。 多分今の自分は相当赤い顔をしているのだろう…。 決まり悪げにちらりと視線を上げると、何を思ったのかスザクは頬を真っ赤に染め、勢いよく飛び退いた。 「スザク?」 訝しげに俺が問うとスザクは赤い顔でぶんぶんと手を振り回す。 「いや、違っ…ごめんっルルーシュっ!」 そう叫ぶと顔を押さえながらスザクはものすごい速さで生徒会室を飛び出していった。 「な、何だったんだ…?」 スザクの突然の脱走に目を丸くするしかない。 いったい何が起こったというのだろう。 さっぱり訳が分からない。 せめて説明してから行ってもらいたいものだ。 よく分らないままゆるゆると体を起こすと、ようやく我に返ったらしい会長が満面の笑みを浮かべた。 「この勝負、ルルちゃんの勝ち〜っ!お姉さん、いいもの見せてもらったわぁ。いやあ目の保養ね」 「目の保養…?というか何なんですか、その笑顔は」 「ん、グッジョブ!」 「いや分かりませんから」 会長の笑みに首をかしげつつ、俺は立ち上がり埃を払った。 もちろん、爆笑しているリヴァルを睨みつけることは忘れない。 それにしてもスザク…一体どうしたというのだろう? あとで問いつめてやろうと頭の片隅で考え、いまだに爆笑し続けるリヴァルを思いきり殴りつけた。 リヴァルの抗議は聞こえないことにし、俺は早々と生徒会室を後にする。 ――こうして今日もハプニングに富んだ、非日常的な日常が過ぎていくのであった。 **スザク氏の主張** だって好きな人が僕に組みしかれて頬を赤くして涙目になってるんだよっ!? それに至近距離で上目遣いをされたらこっちの理性が吹っ飛ぶよ。 はぁ…ルルーシュはもうちょっと自覚するべきだよ、 自分がどれだけ人を煽っているのかってことを。
スザルル両想い前、生徒会室での一コマでした! 多分初のギアス小説…かもしれない(爆 やっぱり学園ものは好きだなぁ…R2でも学園ものが見たいなぁorz プラウザバックでお戻りください。