「それが今朝起きたことなのね〜。」

   今朝の出来事を聞いたミレイは感慨深げに頷いた。
   学校に来てるはずなのに授業に2人が出てない、とシャーリーから聞いた時は
   どっかでサボリでもしてるのか、と思ったのだが。

   「まさかこんなことになってたとはねぇ〜」
   にやにやとした笑みを浮かべる彼女の前には普段なら有り得ない様子のルルーシュ。
   ルルーシュをねこじゃらしでからかいながらミレイは笑いが止まらなかった。



   最初に異変に気付いたのは壁際でパソコンをしていたニーナだった。

   「ミレイちゃん…なんか変な音が隣から聞こえるんだけど…。」
   不法侵入者かもしれないため、ミレイを筆頭に生徒会室にいる全員で行ってみれば。


   「はぁ?」
   そこには、なぜか憔悴したスザクとその手に噛みついているルルーシュという
   不可解極りない構図に一同唖然とするしかなかった。


   とりあえずルルーシュをスザクから引き離し、事情をきこうと試みた。
   おおかた痴話喧嘩でもしたのだろう、と楽観的にとらえていたのだ。
   しかしそれはルルーシュの一言で綺麗に瓦解してしまうこととなる。

   「さぁ〜ルルちゃぁん、何をどうしたらこぉんなマニアックなプレイを
    繰り広げる羽目になったのか、このミレイさんに全てをぶっちゃけなさぁい。」
   「……にゃあ?」

   「は?」


   訝しげに眉を顰めたのはミレイだけではなかった。
   いつまでもふざけるタイプではないうえに、間違ってもルルーシュは猫真似などしない。
   それ相応の理由がないかぎり。

   「ちょっとルルーシュ?!あなた、そういうキャラじゃないでしょ?」
   「にゃあ。」

   そのままうずくまるとくしくしと顔をこすり始める彼に衝撃が走る。
   いち早く石化からとけたミレイが、未だに魂が抜けているスザクの胸倉を
   ガシッとつかみあげるまでそう時間はかからなかった。

   「スザクくんっ?!何がどうなってんのよ?!」
   ミレイはルルーシュを指差しながらスザクを問い詰める。
   指の先にはねこじゃらしにじゃれついているルルーシュの姿。
   見た人を瞬時に石化させるほどの威力だ。


   「ルルーシュ…ルルーシュ…」
   「えぇい、しっかりしなさい!
    事情が話せるのは多分あなたしかいないんだからっ!」

   ミレイはなぜか魂が抜けたように呆然としているスザクをがくがくと揺さぶり続けた。
   時間をかけてようやく聞き出した途切れ途切れの言葉を繋げて推測したところ、
   何がどうしてそうなったのかは分からないがルルーシュの体に
   アーサーの幽霊が入ってしまったらしい。


   「ふぅん…」
   何となくではあるが事情を察したミレイは目を細めにんまりと笑みを浮かべた。
   状況さえ分かってしまえばこっちのものだ。
   あとはいかにルルーシュで遊ぶかを考えればいいだけなのだから。



   あれから弄りに弄った末、ミレイはルルーシュ(アーサー)ねこじゃらしいじめが
   いたくお気に召したらしい。
   笑い転げながら尚もねこじゃらしをあちらこちらへと振り回しては
   ルルーシュを翻弄し続けている。
   普段冷静で冷めた顔をしているルルーシュがむきになってねこじゃらしを
   追いかけてる姿がもの珍しいのだろう。


   実際問題としてアーサーがルルーシュの中に入ってしまったことによる
   害はほとんどなかった。
   ルルーシュの中にアーサーが入ってしまったということ、それ自体が大問題では
   あったが現段階ではあまり問題とされなかった。
   アーサーが入ってるルルーシュはやたらと人なつこく、ミレイに遊んでもらい、
   シャーリーのそばで丸くなり、リヴァルにじゃれつき、カレンにはエサをねだった。
   (ここで何を与えるべきかで一悶着あったのだが。)


   そう、ルルーシュ(もといアーサー)はいつも通りみんなによく懐いた。
   ―――ただ1人を除いて。


   「……っ」
   「スザクくん、また引っかかれたの?」
   セリフはいつもと変わらない。いつもと違うのは…

   「うぅ…ルルーシュ〜…。」
   受ける精神的ダメージが較べ物にならないくらい大きいということだった。

   アーサーにいつも通り拒否られているにすぎない、ということはよくわかっている。
   しかし感覚的に受け入れられないのだ。
   どっからどうみてもルルーシュに拒絶されてるようにしか見えなくて。

   「ルルーシュ〜っ!」
   そしてまた手を出して引っかかれ涙目…の繰り返し。
   エンドレス繰り返し。
   ルルーシュも楽しくてやってるんじゃないかと思うくらい機嫌がいい。
   あまりにもスザクの手が痛そうなことになってるのを見たシャーリーが
   止めに入るまで不毛すぎるそのコミュニケーションは続けられた。


   「これは憔悴するわね〜」
   スザクが憔悴しきっていたわけを悟ったらしいミレイがはっは〜んと笑う。

   「大好きなルルーシュに拒絶されてるように見えるんでしょ。
    大丈夫よ、ルルーシュもアーサーもあなたのことを嫌ってるわけじゃないんだから。」
   「ルルーシュ…。」
   落ち込みすぎて真っ白な灰と化しているスザクを宥めるように
   ミレイは豪快にスザクの頭を掻きまわした。

   「ま、スザクくんもこれじゃ可哀想だし、
    さっさとアーサーをもとに戻す方法でも考えますか。」
   たっぷりルルーシュで遊んだことだしね、と茶目っ気たっぷりにウインクされ、
   スザクは思わず目頭が熱くなった。

   「会長…。」
   「安心しなさい!このミレイ姉さんに不可能なことはないんだから。」
   「…ありがとうございますっ!」
   ミレイがこれほど頼もしく見えたことが未だ嘗てあっただろうか。
   この人になら一生付いていってもいいかもしれない。
   そう思えた瞬間だった。


   「というわけで、スザクくんはルルーシュの面倒を見てやってね。」

   「…え?」

   突然の話の流れについていけず、スザクは間抜けな声を上げた。
   びしっと親指をたてての宣言。え……グッジョブ?

   「ほら、本人がいるとなんとなく気まずいじゃない?
    それにスザクくんが一番タフそうだし。」
   「いえ、すでに心身ともにズタボロなんですが…。」
   「ナナちゃんには私の方から話しておくわ。」
   「えっと…?」
   「というわけで、会長命令でっす。
    この土日クラブハウスに泊まり込みでルルーシュの世話をしなさい!」

   あれよあれよと言う間に、ミレイのペースに巻き込まれ、とんでもないことを
   命令されてしまった。
   
   (誰だよ、さっき会長のことを「頼もしい」とかって考えたやつはっ!
    ……いや、僕だけど。…ってあれ?命令……?)

   「えぇっ?!」
   数秒遅れで会長命令の内容を理解したスザクは椅子を蹴立てて立ち上がる。
   危うくそのままうなずいてしまう所だった。

   「ちょっと、待ってください会長!」
   「そうですよ、会長!なんでスザクくんなんですか?!」
   「スザク、すでにボロボロっすよ〜?」
   慌てた声のスザクの抵抗にシャーリーとリヴァルの加勢の声が加わる。

   やっぱり持つべきものは友達だよなぁ…。
   援護の声に不覚にもじぃんとしてしまった。


   「なんだかんだいってアーサーとルルーシュの扱いに一番なれてるのは
    スザクくんじゃない。
    だからそっちはスザクくんにまかせて私たちはもとに戻す方法を考えるのよ!」
   「さっすが会長!そこまで考えての行動だったんですね。」
   「そういうことなら俺も協力しまぁっす!」
   正論なんだかよく分からない理論に簡単に懐柔されたが。

  「え、リヴァル、シャーリー!?」
  「頑張れ、スザク。俺は信じている。」
  「……何を?」

   嫌な予感に、半眼で尋ねた先にはにかっと笑ったリヴァル。
  「たとえルルーシュにやられても不死鳥のように蘇ってくるって!」
  「意味わかんないからっ!」

   とりあえず目の前のリヴァルを裏拳で床に沈め、改めて会長に目を向ける。

   会長さん……どうか僕に助け船を……。
  「ま、頑張りなさい!」
   ルルーシュにはよく効く「子犬のような目」も無敵会長様には効かなかったらしく。
   それはもうにこやかな笑顔でばっさり切り捨てられた。


   明らかに事態を楽しんでいるミレイは「あとはよろしくねん!」と言って
   みんなを引き連れてあっさり生徒会室出ていった。
   もちろん、白目をむいているリヴァルも忘れずに引きずって。



   あとに残されたのは眠りこけているルルーシュとスザク。


  「……っっ薄情者ぉぉぉぉっ!」

   がらんとした生徒会室にスザクの声がむなしく響いていた。




 

   ようやくアーサー化ルル対策隊がたてられた…。    やっぱり長編は苦手だ…世の小説家様達を本当に尊敬します…。    とりあえず次で元に戻ってほしいなぁ^^←    プラウザバックでお戻りください。